記事のポイント
- 常識を疑う: JリートはNAV(時価)で見るのに、なぜ不動産株はPBR(簿価)で判断されるのか?
- データの真実: 有価証券報告書の「含み益」を算入すると、大手不動産株は実質「半値」の異常な割安水準。
- 投資の結論: 「資産価値の本丸」と「配当のJリート」、それぞれの役割を理解した分散投資戦略を提案。
1. なぜJリートは「PBR」ではなく「NAV」で語られるのか?
Jリートの投資判断において、PBR(株価純資産倍率)を気にする人はまずいません。代わりに使われるのがNAV(Net Asset Value:正味資産価値)倍率です。
理由はシンプルです。リートが持つ不動産の「時価」をダイレクトに反映しているからです。
- PBR: 昔買った値段(簿価)で計算。
- NAV: 今売ったらいくらか(時価)で計算。
「今いくらで売れるか」を基準にするNAVの方が、実態に近いのは明白です。
2. 総合不動産会社のPBRは「嘘」をついている?
ここで疑問が湧きます。
「三菱地所や三井不動産も、大家ビジネスである以上、時価ベースのNAVで見るべきではないか?」
現在の東証では、不動産株も一律に「PBR」で評価されています。しかし、大手不動産会社が保有する丸の内や日本橋のビルは、数十年前の安値(簿価)のまま帳簿に載っています。この帳簿上の数字と現実の価値の差が**「含み益」**です。
実際に、Jリートと同じ「時価ベース(税引前含み益を加算)」の物差しを当てはめて再計算した**「修正PBR」**のデータがこちらです。
主要5社「修正PBR」比較データ(2025年最新版)
| 銘柄 | 表面PBR | 賃貸不動産の含み益※ | 修正PBR (時価換算) | PER | 配当利回り |
| 三井不動産 | 1.52倍 | 3.68兆円 | 0.71倍 | 18.5倍 | 1.92% |
| 三菱地所 | 1.87倍 | 5.04兆円 | 0.62倍 | 24.1倍 | 1.21% |
| 住友不動産 | 1.60倍 | 4.20兆円 | 0.57倍 | 17.7倍 | 1.08% |
| 野村不動産HD | 1.10倍 | 0.32兆円 | 0.79倍 | 10.99倍 | 3.75% |
| ヒューリック | 1.55倍 | 0.40兆円 | 1.06倍 | 11.82倍 | 3.44% |
| 日本ビルファンド | — | — | (NAV)1.15倍 | 26.22倍 | 3.44% |
※三井・三菱・住友・野村は25/3期末、ヒューリックは24/12期末の有報注記ベース。
※修正PBR = 時価総額 ÷ (純資産 + 賃貸不動産含み益)。
Jリート(日本ビルファンド)がNAV倍率1.15倍で取引される中、住友不動産はわずか0.57倍。もし買い占める資金があれば、現物不動産を買うより、不動産株を買うほうが圧倒的に安く「一等地のオーナー」になれるのです。
3. なぜ「お宝」は放置されるのか?不動産株のデメリット
これほど割安なのに、なぜ皆が不動産株に殺到しないのか。そこには個人投資家にとっての「我慢の壁」があります。
- 資金効率の「他力本願」リスク: 総合不動産株の最大の弱点は、配当利回りの低さです。他の投資家がこの「含み益」に注目して株価を押し上げてくれない限り、長い期間報われない可能性があります。
- PERで見ればJリートは「割高」: Jリートは分配金利回りが高い一方で、PERで見ると20倍を超えるケースが多く、実は利益に対しては高値で買われています。
4. 結論:それぞれの「役割」を理解した上での分散投資が正解
ここまで資産価値の観点から総合不動産株の割安さを強調してきましたが、ではJリートを持つ意味はないのでしょうか? 私の意見は「NO」です。
むしろ、私はJリートを**「ポートフォリオのインカム(現金収入)を高める不可欠なパーツ」**として保有し続けています。
導管性という「最強の仕組み」
総合不動産株への投資は、株主還元が経営陣の判断に委ねられています。一方、Jリートには「法人税の免除を受けるためには、利益の90%超を分配しなければならない」という法律上の要件(導管性)があります。この**「利益が出たら確実に吐き出す」というスキーム(仕組み)**は、インカム(現金収入)を計算したい投資家にとって、何物にも代えがたい安心感となります。
一方で、総合不動産会社にも、Jリートにはない強みがあると私は考えています。
最後に信じられるのは「本丸」のプライド
Jリートは効率的で優れた商品ですが、所詮は親会社の一機能に過ぎません。経営陣や社員の人生を懸けたコミットメントは、間違いなく「親会社」の方が断然高い。
もし世界的な不動産危機が訪れたとき、経営陣や社員が、最後まで看板を守り抜き、心中する覚悟で会社を維持しようとするのはどちらか。私は、自らの名前を冠し、何世代も街を守ってきた**総合不動産会社を守り抜く「本気度」**は、Jリートに対するそれとは比べ物にならないと思います。
「資産価値で見れば、半値で売られている超優良株。ただし、報われるまでには時間がかかるかもしれない。」
このリスクを承知の上で、一等地の「真のオーナー」になる道を選んでみるのであれば、総合不動産会社を選択することになるでしょう。
「本気の資産」と「確実な分配」を組み合わせる
最終的には、以下のような考え方で両者を組み合わせるのが、最も理にかなった不動産投資の形ではないでしょうか。
- 総合不動産株(本丸):経営陣のプライドと圧倒的な含み益に裏打ちされた「最後の砦」。資本効率の面で我慢が必要な時期はあるが、実質半値近い価格で一等地のオーナーになれる「心中できる資産」として保有する。
- Jリート(一機能):親会社の機能の一部として、優良物件から得られる利益を効率的に受け取るための「分配金獲得装置」。内部留保ができない脆弱さはあるが、その分、市場での評価が安定しており、確実なキャッシュフローをもたらしてくれる。
「心中するなら本丸」という覚悟は持ちつつも、その本丸から切り出された「高利回りな分配金」もしっかり受け取る。
両者の特徴、つまり**「経営のコミットメントの差」と「配当・税制のスキームの差」**を正しく理解した上で、自分のポートフォリオの中でバランスを取る。これこそが、数字の裏側までを理解した、リスク分散された不動産投資のあり方だと私は考えています。
本日もお読みいただきありがとうございました。
総合不動産会社の雄「三井不動産」については以下の記事で詳しく解説しています。
Jリートについては「インカム投資」→「Jリート」カテゴリ内の記事で詳しく解説しています。
おまけ:あなたはどっち派?診断チェックリスト
迷っている方のために、5つの質問を用意しました。当てはまる数が多い方があなたの向いている投資先になります。
A:総合不動産株(心中・資産価値重視)向き
- [ ] 5年、10年といった長期のスパンで株価の上昇を待てる忍耐力がある。
- [ ] 毎月の配当金よりも、数倍に化けるかもしれない「含み益」にロマンを感じる。
- [ ] 危機時に「経営陣が意地でも会社を守る」というコミットメントを重視したい。
- [ ] 割安なものを、市場が気づく前に「仕込んでおく」投資スタイルが好きだ。
- [ ] 企業のPERやPBRを自分で計算して分析することに苦痛を感じない。
B:Jリート(インカム・効率重視)向き
- [ ] 毎年、確実かつ高い利回りのキャッシュフロー(分配金)が欲しい。
- [ ] 内部留保などで会社に資金を貯められるより、すぐにお金を吐き出してほしい。
- [ ] 銘柄選定にあまり時間をかけず、市場で「常識」とされている指標で選びたい。
- [ ] 総合不動産会社の「一機能」としての透明性の高さを好む。
- [ ] 資金効率を重視し、株価の上昇よりも利回りの安定性を優先する。





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