「特定口座にある高配当株、配当金から20%も税金が引かれるのはもったいない。早くNISAに移すべき?」
新NISAの枠が空いている投資家にとって、これは最も切実な悩みの一つです。
しかし、焦って「引っ越し売買」をする前に、少し立ち止まって考えてみませんか。
実は詳細なシミュレーションを行うと、「税金を払ってまで移管するメリット」は驚くほど小さいという意外な事実が見えてきました。
今回は、高配当株投資家が陥りがちな「節税の罠」と、後悔しないための判断基準を解説します。
シミュレーションで判明!「高配当株」移管の落とし穴
「NISAなら配当金が非課税だから20.315%分、受取額が増える」と思われがちですが、現実はそれほど単純ではありません。含み益がある銘柄を売却して買い直す場合、以下の「目減り」が発生するからです。
運用元本の減少(株数の減少)
含み益がある銘柄を売ると、その場で約20%の税金が徴収されます。再投資できる資金(元本)が減るため、買い直せる「株数」も減ってしまいます。
以下、例を使って説明します。
| 銘柄 | 三菱UFJフィナンシャルグループ |
| 現在株価 | 2,762円 |
| 購入時株価 | 586円 |
| 保有株数 | 600株 |
| 時価 | 1,657,200円 |
| 購入価格 | 351,600円 |
| 含み益 | 1,305,600円 |
| 1株あたり配当 | 74円 |
特定口座の株を売却した場合、受け取れるCashは税金の分、時価より少なくなります。
| 税率 | 20.315% |
| 売却価格(=時価) | 1,657,200円 |
| 税金(=含み益×税率) | 265,233円 |
| 受取Cash(=売却価格−税金) | 1,391,967円 |
売却代金でNISAで再投資する場合、購入できる株数は、元々保有していた株数より少なくなります。
| 再投資金額(=受取Cash) | 1,391,967円 |
| 株数(再投資金額÷現在株価) | 504株 |
このように、含み益がある特定口座の株を売却し、NISA口座で再投資する場合、株数は減ってしまいます。
「配当非課税」vs「株数減少」
税率は0%になりますが、元となる「株数」が減っているため、結局受け取る配当金の総額は、特定口座時代とさほど変わらなくなります。
| 特定口座のまま | 売却後NISAで再投資 | |
| 株数 | 600株 | 504株 |
| 配当金(税前) | 44,400円 | 37,294円 |
| 税率 | 20.315% | 0% |
| 税金 | 9,020円 | 0円 |
| 配当金(税後) | 35,380円 | 37,294円 |
NISA口座で買い直すと20.315%(8,880円)税後の受取配当金が増えるのかと思いきや、増えるのはわずかに1,914円となります。
シミュレーションの結果
「いやいや、受取配当金の差は大きくなくても、NISAに移管した方が将来値上がりしたときの売却益に対する税金がなくなるから有利でしょ」という意見もあると思います。
その点も含めてシミュレーションをしてみました。
保有期間を10年に設定し、株価が2倍になった後、売却というケースを想定した結果が以下です。
| 特定口座のまま | 売却後NISAで再投資 | |
| 株数 | 600株 | 504株 |
| 10年後株価 | 5,524円 | 5,524円 |
| 10年後時価 | 3,314,400円 | 2,783,935円 |
| 簿価 | 351,600円 | 1,391,967円 |
| 売却時利益 | 2,962,800円 | 1,391,967円 |
| 税率 | 20.315% | 0% |
| 税金 | 601,893円 | 0円 |
| 受取Cash | 2,712,507円 | 2,783,935円 |
| 10年間受取配当金(税後) | 353,801円 | 372,938円 |
| 合計受取Cash | 3,066,309円 | 3,156,873円 |
はい、確かに結果はNISA枠で買い直した方が有利になりました。
ただし、差額はわずか90,565円です。
皆さんはどう感じるでしょうか?わたしは「差額はこんな金額しか出ないのか」と正直感じました。
これも、NISA枠で買い直す場合、最初に売却時の税金で、株数が減少してしまうことが影響しています。
ちなみに、同様のシミュレーションを②株価横ばい、③株価1/2で行った場合の結果は、②は19,137円NISA移管が有利、③は16,577円特定口座のままが有利でした。
このシミュレーション結果を見ると、結論としては「急いで何が何でも特定口座からNISAへ移管した方がいい」というわけではない、というのが私の意見です。
※注∶含み益の大小でシミュレーション結果は変わります。
【例外】迷わず「移管」を選択すべきケース
ただし、シミュレーション上のデメリット(元本の目減り)が発生しない、あるいはメリットが明らかに勝るケースが1つだけあります。
それは、**「特定口座で保有していて、含み益がない(含み損、またはトントン)一軍銘柄(=長期で保有し続けたい銘柄)」**です。
- 理由: 売却しても税金が引かれないため、株数を減らさずにそのままNISA口座へスライドできます。
- 判断: 今後も長期保有したい銘柄であれば、これはノーリスクで「将来の非課税権利」を手に入れる絶好のチャンスです。優先的にNISAへ引っ越ししてもよいでしょう。
特定口座の高配当株、移管を検討してもいい基準
含み益がある銘柄であっても、以下のような「条件」が揃っている場合は移管を検討する余地があります。
- 新規投資の余力がない: 給与などから追加で投資に回せる新資金がなく、既に保有している銘柄の移管以外にNISA枠を使う予定がない。
- アセットアロケーションを守りたい: 株式の比率をこれ以上増やしたくないため新規投資でNISA枠を使う予定がない。
- 銘柄のアップデート: 実は売るタイミングを探していた特定口座の「2軍銘柄」を整理し、改めて一生持ちたい「1軍銘柄」をNISAで買い直したい(このケースは「銘柄入替」で「移管」ではないですが)。
新規投資でNISA枠を埋める予定であれば、移管より新規投資を優先した方がよいですが、その予定がない場合は、例えば含み益の小さい銘柄の「移管」でNISAを利用することを検討してもよいでしょう。
投資家にとっての「第3の選択肢」
特定口座の高配当株について「今すぐ移管か、放置し続けるか」の二択である必要はありません。来年以降の相場変動に備え、以下のような柔軟な戦略も有効です。
- あえて「NISA枠を未使用」にする: 無理に移管して元本を減らすより、来年以降に「もっと買いたい銘柄」や「暴落時のチャンス」が来た時のために、NISA枠を空けておくというのも一つの選択肢です。
- 「暫定運用」で様子見: 元本変動が小さい債券ETF等でNISA枠を一時的に埋めておき、本当の好機が来た時に売却して本命の株式へ乗り換える(NISA枠は翌年再利用できるため)。
今年は新規投資でNISA枠を埋める予定がなかったとしても、来年以降も同じかどうかはわかりません。
そのため、急いで「移管」でNISA枠を使うのではなく、暫定的に他のもので使用しておいて「様子見」するという方法もあります。
まとめ:税金の損得よりも「投資の基本」を大切に
今回のシミュレーションの通り、含み益の大きい特定口座の高配当株を急いでNISA口座に移す必要はないと思います。
計算上、「特定口座のまま」と「売却後NISA口座で買い直し」の利益の差が「わずか」であるならば、私たちが本当に大切にすべきは**「安く買って高く売る」「納得感のある資産に投資し持ち続ける」という投資の基本**です。
一人1,800万円もあるNISA枠で、自分がどのような銘柄や資産を保有したいのかの「最終形」をイメージしてみましょう。
そして「最終的にNISA枠で保有したい銘柄」を「適正価格で購入する」ことに集中した方が、結果的にNISA枠の非課税効果をうまく活用できるのではないかと思います。
急いで移管しても、その後に利益が出なければ非課税効果など無意味です。
適正価格で段階的に、自分にとっての「一軍銘柄」でNISA枠を埋めていけばよいのではないでしょうか。
本日もお読みいただきありがとうございました。
【補足】特定口座からNISA口座への「移管判断」チェックリスト
補足として「移管する方がよいかどうかを検討する上でのチェックリスト」を紹介します。
| チェック項目 | 「移管」に前向きでOK | 「特定口座」維持を検討 |
| 含み損益の状態 | 含み損・含み益ゼロ(元本を減らさず移動できる) | 多額の含み益(税金で運用元本が大きく減る) |
| 投資余力(現金) | 新規投資できる余剰資金がもうない | 毎月の給与や預金でNISA枠を埋められる |
| アセットアロケーション | 株の比率を増やさずに非課税化したい | 現金比率がまだ高く、株を買い増したい |
| 銘柄の「鮮度」 | 今後10年以上持ち続けたい「1軍」 | 実は売るタイミングを探していた「2軍」 |
| 管理のコスト | 納税管理を楽にするためNISAにまとめたい | 複数口座の管理に抵抗がない |
「多額の含み益」があり、かつ「新規投資できる現金」がある場合は、特定口座の株式を売らずに現金をNISAに充てるのが最も効率的です。


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